店舗を開業するとなったら売上が立つかどうか、コンセプトや内装・外装のデザインをどうするか考えるかと思いますが、設備工事についてもしっかりと考える必要があります。設備工事とは電気・ガス・水道・空調などの工事を指し広い意味では内装工事の中に含まれますが、別で考える分け方もあります。設備はホールや壁の内装と違って店舗の見た目にあまり影響を与えませんが、設備に不備があると店舗の営業許可が降りなかったり、トラブルがあった際に営業停止を余技なくされたりすることもあります。
設備工事の種類と特徴、ポイントを押さえていただき店舗開業にあたっても営業開始後もトラブルが起きないようにしてください。
■目次
1.設備工事の内容を理解するメリット
2.設備工事の内容とポイント・注意点を説明
2-1.電気工事
2-2.ガス工事
2-3.水道工事
2-4.空調工事
2-5.消防設備工事
3.飲食店営業に必要な許可
3-1.飲食店営業許可取得に必要な要件
3-2.防火対象物使用開始届に必要な要件
4.まとめ
1.設備工事の内容を理解するメリット
店舗を開業する上では行政から認可を受ける必要があります。例えば、飲食店の場合は厨房が清潔に保たれお客様に食品を提供できる環境が整っているか、万が一火災が起こった場合に備えて防火対策がなされているかを保健所と消防署に申請します。
設備工事の内容を知っておくことで開業にあたりどの点を注意すれば良いかが明確になります。また、認可以外にも大きく3つのメリットがあります。
1)設備工事の内容と相場を知ると内装工事全体の予算が立てやすくなる
2)必要な工事や機器の抜け漏れ等のトラブルを防げる
3)業者に金額交渉しやすくなる
内装工事に関しても言えることですが、業者から貰う見積は専門用語が多く内容が把握しづらいことが多いです。設備工事の内容や認可を受ける上で必要なポイントを押さえておけば、工事の抜け漏れを防止することに加え業者と対等に会話しやすくなり、金額交渉する材料になり得ます。
2.設備工事の内容とポイント・注意点を説明
設備工事は大きく分けて電気、水道、空調、ガス、消防設備の5つの工事に分かれます。それぞれの特徴とポイントを押さえてください。
2-1.電気工事
スケルトンから店舗を開業する場合はコンセントと照明のスイッチ、分電盤の設置場所を決めるところから始まり、それに応じた配線を敷いていきます。その他、店舗のイメージに合わせてシーリングライトやダウンライト、ペンダントライトといった照明の種類を決めます。居抜きの場合は必要な電気の容量を確認し、基本的に必要があった時のみ容量を上げるだけで済みます。
1点電気工事でポイントとなるのが動力を使用するかどうかです。電気には電力と動力の2種類があり、電力はエアコンや洗濯機、照明などに使われる電気で一般家庭や事務所、店舗で使用されています。動力は主に飲食店や工場などに使用され、業務用冷蔵庫や業務用エアコン、食器洗浄器には動力が必要な場合が多いです。店舗で使用する機器に動力が必要かはあらかじめ確認しておきましょう。
30坪の広さでスケルトンを考えた場合、120万~150万円が相場となります。
2-2.水道工事
主に美容室や飲食店で必要になる工事です。トイレやシャワー台、シンクへの配管のつなぎを行います。スケルトンからの工事の場合は自由にシンクやシャワー台の場所を決められますが、居抜きの場合は増やしたくても難しい場合があるので内見する際に確認する必要があります。
飲食店の場合は厨房や手洗い場の下にグリストラップと呼ばれる装置を設置し、油脂を含んだ汚水が排水管設備を妨げないようにします。居抜きの場合でも店舗開業前には清掃が必要です。
30坪の広さでスケルトンを考えた場合、150万円前後が相場となります。
2-3.空調工事
スケルトンから開業する場合は厨房の換気扇や天井裏のダクトを設置し、室内の空気を屋外に排気する工事を行います。空調には外に突き出る一般的なタイプのビルトイン型と、天井の中に本体が埋まっている天井埋込型の2種類があります。店舗の特徴に応じて選んでいただければと思います。
居抜きでは既存設備をそのまま使用できれば空調工事自体が必要ないこともあります。但し、前のテナントが一般家庭やカフェなどだった物件に飲食店を開業する場合は点検口を覗きダクトを通すスペースが取れるか確認する必要があります。天井の躯体からボードまでのスペースが確保されていないと換気に必要なダクトを設置できず、天井を張り替える必要が生じます。
エアコンを設置する際、室外機を店舗の外かベランダなどに置ける場合と、屋上に設置しなければならない場合とがあります。屋上に設置するとなるとクレーン等で吊り上げる必要があり工事費が高くなるため、事前に室外機の設置場所は確認が必要です。
30坪の広さでスケルトンを考えた場合、180万~200万円が相場となります。
2-4.ガス工事
ガス工事は飲食では必須の工事ですがその他の業態の店舗では必要ありません。スケルトンの場合は厨房下からガス配管を通し、厨房器具に配管を繋ぎます。事前に厨房で使用する機器と必要な容量をガスの容量を確認しておきます。その他、給湯器の設置もガス工事に含まれます。
居抜きの場合は設置予定の厨房機器で使用するガス容量が物件に用意されているガス容量で足りるか確認が必要です。ガスの容量が足りない場合、ガス工事で容量を増やすのがベストですが、給湯器の強さを示す号数を下げたり、一部の厨房機器を電気式のものに変えたりすることでガス工事なしでも対応が可能です。費用は安く抑えたい場合や開業までに日数が限られている場合は検討してみると良いかと思います。
30坪のスケルトンを想定した場合は100万~120万が相場です。
2-5.消防設備
消防上必要な設備には消火器の他、以下の3つが必要になります。
1) 非常灯:非常口を照らすもの
2) 総合盤:火災の際にボタンを押すと警報が鳴る仕組みのもの
3) 火災報知器:火災発生時に警報で知らせるもの
その他、飲食店では厨房で火災が起きた際にスプリンクラーの働きをするトマホークというものも設置が義務付けられています。
30坪のスケルトンを想定した場合は30万~50万が相場です。
トマホークは単体で70万~100万が相場になります。
3.飲食店営業に必要な許可
飲食店の営業許可には飲食店営業許可と防火対象物使用開始届の2つが最低限必要になりますのでポイントを押さえておいてください。
3-1.飲食店営業許可取得に必要な要件
飲食店営業許可取得に必要な要件は地域の保健所によって若干異なるため、工事内容と店舗の図面が完成したら管轄の保健所に行き事前に確認を行ってください。必要な要件の具体例としては以下のようなものがあります。
1) 厨房にシンク1槽のサイズが[幅45cm×奥行き36cm×深さ18cm以上]の2層シンクが設置されている
2) 厨房内、トイレ内にそれぞれ[幅36cm×奥行き28cm以上]の手洗器が設置されている
3) 冷蔵庫や製氷機、食洗器、オーブンなどの厨房機器が厨房内に収まっている
4) 厨房を客室が扉で仕切られている
※床から天井まで間仕切りされている必要はありません
3-2.防火対象物使用開始届に必要な要件
こちらも管轄の消防署により基準は異なりますので、店舗の平面図ができた段階で内装工事開始前に消防署に相談に行ってください。必要となる要件には一般的に以下のようなものがあります。
1) 厨房の熱機器の裏はケイカル版などの不燃材が使用されている
2) 厨房のダクトの半径10㎝以内には不燃材が使用されている
3) 正面入り口の他に1つ以上非常口が設けられている
4) 建物が2階以上の場合はベランダに避難はしごが設けられている
5) 1㎡以上の個室1つにつき火災報知器が設けられている
4.まとめ
設備工事は一見地味でもあり業者任せにしてしまいがちですが事前に工事における必要なポイントを押さえ、業者としっかり打合せをしながらトラブルが発生しないようにすることが重要です。
設備工事は電気屋、水道屋、ガス屋など分野ごとに専門としている業者がいますが、内装工事と併せて依頼するのが理想です。工事の段取りに慣れない状況で分離発注をしてしまうと、業者と業者の間に立って工事を進めていく必要があるため思わぬトラブルを招くことがあります。内装と設備でトータルで対応してもらいながらも、必要な情報やこだわるポイントはしっかりと業者に伝え、理想とする店舗を開業できるようにしてください。